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突撃インタビュー いまどき クリエイターズ

語り手はリズムに乗って
作家・小野寺史宜さん

昨年、第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞した小野寺史宜さん。
受賞作『ROCKER(ロッカー)』は、女子高生が主人公の痛快なロック小説として、話題をよんでいる。
青春小説に新たな光を投じた気鋭の著者に、作品や独自の執筆スタイルについて語っていただいた。

あらすじを裏切る

--『ROCKER』は、本の帯に「青春ロック小説の金字塔!」と書かれているように、女子高生と、高校教師をしている元イトコのお兄ちゃん、その周囲の人たちがロックを通じてドラマを繰り広げる青春小説。とてもテンポがよくて痛快なお話でした。

小野寺史宜(おのでら・ふみのり)
1968年生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」でオール讀物新人賞を受賞し、デビュー。
2008年『ROCKER(ロッカー)』で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞。
2009年は6月、11月に2作目・3作目を刊行予定。

 

ROCKER

小野寺: ありがとうございます。こうやって紹介していただいたり、話の内容を説明するたびに、面白いと思ってもらえるか心配なんですが……。

--以前、別のインタビューで作品について「あらすじだけで受けた印象を崩すことができると思います」(『ダ・ヴィンチ』2009年3月号)と話してらっしゃいましたよね。確かにそうだと思いました。不登校気味の女子高生が、元イトコのギタリスト(高校教師)に微妙な恋心を抱きつつ、ロック音楽を通じてさまざまな人と出会い変わっていく……というあらすじを拝見すると、失礼ながらそこまで新しさを感じませんでした。ところが、読み始めるととても新鮮で、グイグイ読んでしまうんですよね。良い意味で裏切られましたが、これは狙って書かれているのですか?

小野寺: 狙っているわけではないんです。僕はストーリーそのものを読ませるタイプではないというだけのことで。僕はこの賞をいただく前、かなり長い間、ひたすら執筆しては新人賞に応募して……ということを繰り返していたのですが、応募するときには作品の梗概(こうがい)を書かないといけないんですよね。それですごく苦労していました。毎回、つまらなそうな梗概になってしまって……。だから、あらすじから想像もできない話でした、という感想は嬉しいです。

--構成ありきで書かれていないからこそ、リズミカルで引きこまれるような熱のある作品になっているのですね。

 

リアリティの秘訣は「描こうとしないこと」

--『ROCKER』は主人公の美実(ミミ)のインパクトが大きく、彼女の語りがとても面白くて生々しくて、引きこまれてしまうのですが、そもそも女子高生を主人公にしたのはなぜなのでしょうか。

小野寺: 女子高生を主人公にしようと思って書きだしたわけではないです。元イトコ同士という立場にいる二人の関係を書きたいと思っていて、片方をギターのうまい若い男(永生[エイショウ])にしたら、もう片方は女の子かな、という流れでこの設定になりました。さらに、どうせなら女の子の目線のほうが面白いということで、美実に語らせました。

--それがとてもリアルなので、すごいと思います。小野寺さんご自身は男子高校生だったわけですし、男子が主人公であるほうが、リアルになるのかと考えてしまうのですが……。取材をしたりは?

小野寺: 全くしていません。女子高生の知り合いもいないですし(笑)。女の子を描こう、と思って書いた話ではないところが、逆に良かったのかもしれません。初めから今どきの女子高生の話を書くぞ、と考えていたら、もっとベタなキャラクターになってしまっただろうと思います。

--主人公の美実のトラウマも、それ自体はベタですよね。過去に親友を殺されたというものです。そういう少女は、小説のなかで弱い存在として描かれることが多いと思います。「だから彼女は他人に心を閉ざす」というパターンがとても多い。けれど、美実は自分の抱える問題をよくわかっていて、認めながらもユーモラスに生きている。無闇に暗くならず、強かです。ただ明るい青春のキラキラしたお話でもなく、鬱々としたお話でもない、そのバランスが見事ですよね。

小野寺: 美実は、決して前向きではありません。僕は、「何が何でも前向きに」という考えをよしとしません。勝ち負けのみが重要ということではもちろんないですが、スポーツ選手が、試合後の取材で「楽しめたので良かったです」と言ったりするのもあまり好きではないですし。スポーツに限らず、なんでも楽しもう、ポジティブにいこう、という考えにはあまりなじめません。そうじゃない気持ちもあるはずで、そういう面も自分で認めたほうがいい。美実は、自分の感じることとか考えることと、無理せずに向き合っています。

--それが、この小説の爽快感を生んでいるのでしょう。美実は確信犯的な行動をよくとっていて、強い子のように見えますが、彼女が特別なわけではないと思いました。そもそも人間そこまでヤワじゃない、暗い部分があっても明るい方へ向かって生きられると教えてくれる小説だと思います。

 

小説の中の曲はすべて実在

--バンドのライブやギターの弾き語りの場面がとても印象的でした。最後の蓮見計作(永生の父)バンドのライブシーンは、ステージの熱狂がそのまま伝わってくるようでしたが、小野寺さんもバンドを組んでいたりしたのですか?

小野寺: 今はもうやめていますが、高校時代から、音楽をやっていました。初めはコピーバンド程度で、本格的にロックバンドを組んでやり始めたのは社会人になってからです。僕は主にヴォーカルでしたが、ギターを弾いたりブルースハープを吹いたりもしました。既存の曲以外で『ROCKER』に出てくる曲は、すべて実際に僕が作って演奏していた曲なんですよ。

--元イトコのギタリストのオリジナルソングなど、とても格好良いですよね。ということは、美実に惚れたストーカー高校生・モトキ君が作ったあの曲も!? 「彼女のことを 見てたんだ 彼女は僕を見てないけど」で始まる、衝撃のラブソングでしたが……(笑)。

小野寺: あれだけは違います(笑)。お話を書きはじめてから、ギターをはじめたてのアホな高校生男子が作りそうな、ちょっと痛々しい感じの詩を作ったんです。おおまかにメロディはつけてありますよ。

--ぜひ聴いてみたいです(笑)。オリジナルの曲に加えて、既存の曲もかなり登場しますよね。美実が歌う「スタンド・バイ・ミー」がストーリーにぴったり合っていて、この曲以外には考えられないと思いました。なぜこの曲を選んだのですか?

小野寺: まず、読者の誰でもわかる曲であること。しかも、女子高生でもなんとなく歌える曲ということで、決めました。僕のオリジナルソングでは、読者が共感したり盛り上がったりすることはできないでしょうからね。そして、つかず離れず並び立っている、元イトコ同士の二人の姿が、曲に歌われてもいるんです。

 

下書きはまるで経文

--オール讀物新人賞の受賞作「裏へ走り蹴り込め」も拝読しました。こちらはプロサッカー選手のお話で、やはり一人称での語りとなっていますが、小野寺さんは主人公になりきって語るのがとても上手ですよね。

小野寺: たまたまこの2作は、内容的にも一人称で一気に読ませるほうがいいと思ったので、こういう書き方をしました。

--語り手になりきっているときはどんな気分なのですか? 女子高生の言葉づかいが出てきたりするのでしょうか。

小野寺: 実際になりきって書いているわけではないです。どこかで客観的な部分がないと、危険だと思うので。ただ、僕は小説を書くときに、最初にアタマから終わりまで、ノートに手書きですべて書いてしまうんです。その後でパソコンに打ち込んで清書するんですが、最初にノートに書いているときは、それなりに作品に入り込んでいると思います。

--<マイブーム>でご紹介いただいたノートですね。プロットやメモではなく、文章を全て書いてしまうのですか?

小野寺: 以前はプロットを書いていましたが、それがだんだん長くなって、全部書くようになってきたんです。直接パソコンで書く方法の2倍は時間がかかるので、無駄の多いやり方だと言う人も多いと思います。でも、僕は最初からパソコンに打ち込むとうまくいかないんです。『ROCKER』について、リズムがあるとかテンポがいいといったお褒めの言葉をいただくことが多いんですが、たぶんこの書き方だからできるのだと思います。ノートには、文法や細かいことは気にせず、ダーッと一気に、憑かれたように書いてしまう。僕は、小説の文章や展開にリズムをもたせたいんです。だから、書くときのリズムも大切にしたい。パソコンだと、途中で行ったり来たり、削除したりして迷ってしまうので、リズムに乗れないし、文章にキレも出なくなってしまうんです。

--最初にダーッと書くときの熱気とリズムが、小野寺さんの作品に力を与えているのですね。

小野寺: その後、パソコンに清書するときには多少熱も冷めていますから、そこで同時に推敲もすることになります。それで、清書したものを、さらにもう一度推敲する。それには時間もかかるし、かなりしんどいです。やっぱり最初に憑かれたように書くときが一番楽しい。僕は、書くこと自体が好きなので、無駄が多くてもこのスタイルなんです。

--すでに次回作も刊行が予定されていると聞いています。「手書き一気書き」スタイルの小野寺さんの場合、この質問は答えにくいかもしれませんが、次回作はどんなお話なのでしょうか。

小野寺: 6月に出る予定の作品は、元同級生の男性二人が、30代になって偶然出会う話です。二人は星座と血液型が一緒なんですが、片方はシナリオライターを目指すダメ男、片方はものすごく有名なスポーツ選手。二人の間で色々とドラマが起きるんですが……あの、このあらすじ、大丈夫ですか? つまらなそうではないですか!?

--大丈夫ですよ(笑)! 『ROCKER』とは全く違った作品になりそうですね。楽しみです!

 

6月、11月と立て続けに小説の刊行を予定している小野寺さん。
一見不器用に見える独自の手法で、一心不乱に執筆に打ち込む姿は修行僧のようだ。
そうして、これから、読み手を引きこむ小説をどんどん生み出してくれるのだろう。

取材うらばなし

取材当日、新宿区にあるポプラ社さんまで、東京駅から歩いていらした小野寺さん。「歩いても1時間くらいですよ」と爽やかに仰っていました。家にテレビを置かない、基本はどこでも歩いて行く……と、ご自身に鞭を打つべく禁欲的生活を送っていらっしゃるのだとか。うーん、すごいです。経文のごとく手書きの文字が連なった下書きノートを見ながらそんなお話をうかがうと、小野寺さんが修行僧に見えてきたナッシーなのでした。

 

マイブーム紹介 旬な人の、旬なもの。

下書きに使う、無印良品のダブルリングノート。「パソコンに清書したらどんどん破り捨てていくので、リング式がいいんです。こうして見ると、ほとんど判読できないですよね(笑)」

 

イラスト ハヤシフミカ  写真 高橋依里

 
 

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