年末に、友人たちとちょっとしたイベントを開いた。わたしたちの中で一番明るい友人が提案したものだ。各自、家から、自分は使わないけれどプレゼントするにはぴったりの物を一つずつ持ち寄ること。


 その提案を聞いて、何を持っていけばいいか一週間頭を悩ませた。贈り物として遜色なく、受け取った人に喜ばれ、かつ意味のある物といえば、何があるだろう。わたしの部屋にある物の中でその条件を満たすのは、やはり本しかないように思えた。

 暇を見つけては、椅子に座って本棚を眺め、本を選んだ。どの友人の手に渡るかわからないので、限定されたテーマの本は避けることにした。最終的に選び出したのは、600ページを超える分厚い芸術史の本だ。内容のおもしろさには自信があったが、厚さが少々心配だった。仕事で忙しい友人たちにこんな分厚い本を押しつけるわたしは、本当に世間知らずの「本オタク」なのだろうか。

 友人たちに会いにいく日。本をかばんに入れていると、じわじわと不安が押し寄せてきた。自分の好みを押し出しすぎたかもしれない。急いで本棚から、600ページの半分もない本を数冊選び、一緒にかばんに入れた。不安な気持ちが少し収まった。夜10時、約束の場所に最後に到着した友人の疲れた顔を見て、心を決めた。600ページの本は、いかにも「おまけ」みたいに最後に出そう、誰も喜ばなかったら、しれっとそのまま持って帰ろう!

 ついにプレゼントの公開タイム。まずは「普通の」厚さの本を一冊ずつテーブルの上に載せ、重厚感あふれる600ページの本は最後にそっと取り出した。友人たちの反応は? 小心者らしく悩みに悩んだわたしの数時間はなんだったのかと思えるほど、友人たちは厚い本を温かく迎えてくれた(その他の本が「おまけ」になった)。その本を受け取ることになった友人は「知識人っぽく見える」と喜んでくれた。

 数日後、ほかの人にとっては本当にどうでもいいような話までおしゃべりする、わたしと友人一人は、その日のイベントについて1時間も電話で話した。わたしの不安や小心ぶりの原因はどこにあったのかを細かく分析したあと、なぜ600ページの本がほかの本より人気だったのかを議論した。すっかり真剣になった友人は、声のトーンまで落としてこう言った。「欲求、のせいじゃない?」「欲求?」「そう、知的欲求。あの本がわたしたちの知的欲求を刺激したんだよ」。わたしは、電話の向こうの友人に向かって激しくうなずきながら「確かに、そうだね」と同意した。

 本が厚いほど知的欲求は刺激される。読んでも読んでも残りのページは減らないし、ここまで読んだ内容もあやふやなのにこの先読むべき内容はもっとあるし、なぜかいつもより時間の経つのが遅い気もするけれど、それでも、この行為自体が自分を多少は知的な人間だと思わせてくれるので、読むのをやめられない。厚い本を読み終えて椅子から立ち上がるときの満足感は、とても言葉では言い表せない。高く険しい山を越えたときに得られるその満足感がたまらず、わたしは苦労しながらもよく山に登った。

 年の初めにわたしが登った山には、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福』もある。単に山が高いだけでなく、登ったり下ったりする際に見える風景が多彩で、読んでいて気持ちのいい本だった。この本は、既存の常識を大胆に覆し、歴史の進歩と人間の幸福とのあいだにはいかなる相関関係もないことを解き明かす。たとえば、狩猟採集民のほうが、農業革命以降の農民よりはるかに豊かで幸せだったと著者は述べる。そのうえで問う。これまでの進歩が個別の生命体に幸福をもたらさなかったのなら、これからの進歩はどうあるべきか、と。

われわれは、周囲の環境を屈服させ、食料生産を増やし、都市を築き、帝国を建設し、広範囲の交通網を構築した。だが、われわれは、世の中の苦痛の総量を減らしただろうか?

 いくらおもしろいと評判の本でも、厚いと、ためらってしまいがちだ。いつになったら読み終わるだろう、と。だからわたしは厚い本を読むとき、あえて、いつまでに読み終えようと考えないようにしている。その代わり、昔、試験勉強をしていたときのように、時間単位で目標を立てる。今日は30分だけ読もう、1時間だけ読もう、というふうに。その日の目標時間を達成したらいったん本を片付けておき、次回にまた30分、1時間と読む。『サピエンス全史』も、最後の部分は週末の1日を利用して一気に読んだけれど、本の3分の2ほどは毎日1時間ずつ読み進めた。

※本記事は、3月5日発売予定『毎日読みます』の校正刷りから一部を抜粋した試し読み版です。実際に刊行される内容とは異なる部分がございます。

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