
内容紹介
「あなたはなぜ、この取材を始めたのです?」
明海和(あけみ・かず)はストリートチルドレンの取材を続けるうち、謎の集団・プレデターに襲撃される――。
都市再開発計画の名のもとに首都が七つのゾーンに区切られ、格差社会化が進む2032年の日本。
web情報誌“スツール”の記者・明海和は、独自に子ども狩と人身売買の取材を続けていたところ、カササギと名乗る人物に突き当たる。和が待ち合わせ場所に行くと、そこに現れたのはまだ十代の男性だった。彼は、これ以上取材を続けると「殺されますよ」と警告する。
なぜ、子どもたちの取材をすることが危険なのか? なぜ、国際的なモデル都市でストリートチルドレンが生まれるのか? 和は、自身の父親も“闇の子どもたち”の取材をしていたことを明かすが……。
ジュブナイル小説の名手による新たな代表作誕生!!
格差社会の闇に切り込む、ディストピア長編。
プロフィール
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あさの あつこ (あさの・あつこ)
1954年岡山県生まれ。青山学院大学文学部卒業。小学校講師として勤務の後、1991年に作家デビュー。1997年『バッテリー』で野間児童文芸賞、1999年『バッテリーII』で日本児童文学者協会賞、2005年『バッテリーI〜VI』で小学館児童出版文化賞、2011年『たまゆら』で島清恋愛文学賞を受賞。「NO.6」シリーズ、「The MANZAI」シリーズ、「弥勒」シリーズ、「闇医者おゑん秘録帖」シリーズなど著書多数。
インタビュー
書評
私たちは声をあげなければならない
吉田伸子
読み進めるうちに、心の深い部分がぞわぞわとしてくる。同時に、タイトルであるプレデター=捕食者の意味が凄みを帯びてくる。
本書のヒロインは、零細出版社でweb情報誌「スツール」の記者として働く明海和だ。ある日、取材に向かおうとしていた彼女は、会社のオーナー兼編集長の肥川から止められる。肥川からホログラムで見せられたのは、手の甲に鳥の刺青がある男の死体だった。
その刺青は、初めて会う取材相手から目印だと教えられていたものであり、明海は密かに追いかけているストリートチルドレンに関する「ラダンの壺」の情報を、男から入手する予定だった。何故、肥川が? と訝る明海に、肥川は警察内部からの情報が入ったのだと答える。司法解剖の結果、男の胃の中からカプセルに入った未消化の紙片が見つかり、その紙片に「スツール」の誌名と明海の氏名、それにラダンの壺、という走り書きがあったのだ、と。
死体の男の年齢と、自分に連絡してきた男の声が釣り合わない、と感じた明海は、自分の直感を信じ、刑事たちの来訪をぎりぎりでかわして取材先に向かう。
明海を待ち受けていたのは、カササギと名乗る少年だった。明海は連れて行かれたカササギのアジトのような場所で、突然、謎の集団からの襲撃に遭う。カササギからサリナという少女を託された明海は自らも銃創を負いながら、なんとか脱出するのだが……。
物語の舞台は、社会的な地位によって、AからGまで居住区をゾーン化されている近未来の日本。そこにあるのは、ゾーンごとの社会の断絶と、国家による徹底的な統制だ。その制度からこぼれ落ちてしまう国民は、棄民のように生きるしかない。
フィクションなのに、日本の未来を突きつけられているようで、息苦しくさえなる。そんな未来を変えるために、今の今、私たちは声をあげなければならないのではないか。立ちあがる時なのではないか。そんな警鐘が伝わってくる一冊だ。
よしだ・のぶこ●書評家
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