内容紹介
1977年9月、ボイジャー1号が打ち上げられたとき、アメリカ合衆国フィラデルフィアで生まれたアディーナ。
母親と二人で暮らす彼女は、4歳で自身が宇宙人であることを自覚し、以来故郷のコオロギ・ライス星の「上官」宛てに、ファックスを通して地球の生き物たちについての報告を続けている。
「ビューティーランド」での母との思い出、親友との出会い、9・11との遭遇、思いがけない別れ……。ニューヨークの片隅で生きる異星人が綴る、この地球の不思議と発見。
2025年アメリカン・ブック・アワードを受賞した長編小説。
プロフィール
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マリー゠ヘレン・ベルティーノ (Marie-Helene Bertino)
ペンシルヴェニア州フィラデルフィア北東部生まれ。著作に短編集『Safe as Houses』『2 A.M. at The Cat's Pajamas』『Parakeet』、2作目の短編集『Exit Zero』など。本作で全米批評家協会賞の最終候補に選出、アメリカン・ブック・アワードを受賞。
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小澤 身和子 (おざわ・みわこ)
東京大学大学院人文社会系研究科修士号取得、博士課程満期修了。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン修士号取得。「クーリエ・ジャポン」の編集者を経て翻訳家に。訳書にウォルター・テヴィス『クイーンズ・ギャンビット』、シルヴィア・プラス『ベル・ジャー』、C.S.ルイス『ナルニア国物語』シリーズ、デルモア・シュワルツ『夢のなかで責任がはじまる』など。
書評
物語の底に横たわる、静かな切なさ
豊﨑由美
地球外知的生命体に“人類の物語”を伝えるためのレコードを搭載したボイジャー1号が打ち上げられた1977年、フィラデルフィアで暮らすテリーズという女性の子宮を通して一体の異星人が地球に送り込まれる。彼女の名はアディーナ。課された使命は、地球が危機に瀕している故郷コオロギ・ライス星の人々の生存に適しているかどうか判断するための情報を「上官」にファックス(!)で報告すること。『プラネット・ダイアリー』はそんな突飛な設定を背景に、アディーナの誕生から40歳に至るまでの成長譚になっている。
幼い頃は天才児と見なされ、シングルマザーのテリーズを喜ばせるものの、ルックスは背が低くてメガネをかけていて出っ歯で、髪の毛はもっさもさの剛毛。自分が異星人であることを母親や幼い頃からの親友トニに打ち明けることもできなくて、心のどこかに孤独を抱える少女としてアディーナは育っていく。他人とはちがうことがもたらす孤立感。トニとその兄ドミニクという心を許した友達が、大学進学を機にニューヨークに行ってしまう淋しさ。数年後、地元の大学を退学してニューヨークに出ていくも、生まれ育った町とは比べものにならないほど大勢の人間に囲まれているからこそ覚える寂寥感。小さな出版社に勤めるトニが、アディーナが長年ファックスで上官に送り続けてきたメモを本にしてくれて、大勢の読者に支持されるようになってすら、アディーナの心の片隅に孤独は居座り続ける。親友のトニと、バターナッツと名づけた小さな犬だけが、アディーナの心を満たしてくれるのだけれど――。
人類の手が届く範囲の宇宙にあって、知的生命体を宿すたったひとつの惑星である孤独な地球に送り込まれた、孤独な異星人の心象風景がとてもとても切ない。アディーナが上官に送る報告に見られる深い洞察、アディーナの言動がもたらす巧まざるシニカルな笑いと、読ませる要素には事欠かない作品だけれど、最後の最後に至るまでこの切なさだけは物語の底に静かに横たわり続けている。でも、それに救われる読者はきっといるはずだ。わたし自身がそうだから。
「青春と読書」2026年7月号転載
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