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インタビュー

猫君

畠中恵「「猫は九回生まれ変わる」ということから生死を題材にしようと思いました」

書評

猫又たちの成長にわくわくする、スペクタクルで賑やかな冒険譚!

北村浩子

 のっけから個人的な話で恐縮だが、私のスマホに保存されている写真はほとんどが飼っている猫を写したものだ。どんなにスクロールしても猫の写真ばかり。何気ない姿が可愛く思えてつい撮ってしまうのは、猫飼いあるあるではないかと思う。
 たまに、怒った時の一瞬の顔を撮れることがある。吊り上がった眼、鼻のしわ、上下の鋭い四本の歯。それらをしげしげ眺めていると、ああ自分は獣と同居しているのだなと再認識する。愛らしい。恐ろしい。猫はしばしば正反対のかおを見せる生き物だ。
猫君ねこぎみ りんねの輪』は、第十一代将軍徳川家斉いえなりの許しを得て江戸城内で暮らす猫たちの物語だ。と言っても、彼らは普通の猫ではない。二十年生きると一部の猫はあやかしと化すことがある。言葉を理解し人の姿に変身できる、猫又ねこまたという名の長寿命の怪異になるのだ。
 江戸城内には「猫宿ねこやど」がある。先輩によって集められてきた江戸中の新米猫又たちがここで師匠たちに様々な術を教わりながら交流を深める。この作品の前日譚である前作の『猫君』では、猫宿にやって来た新入生のみかんを主人公に、百万の術を使うという伝説の猫又「猫君」探しをめぐるみかんと仲間たちの冒険が描かれていた。
 新しい世界の仕組みに戸惑いつつ体と頭をフル稼働させて奮闘する、健気な茶虎のみかん、場の空気を和らげる、ちょっとスローな雰囲気のぽん、野心を秘めた強気な鞠姫まりひめなどキャラクターたちが皆魅力的で、その後の話が読みたいなあとずっと思っていたのだが、ついに出ました! みかんは猫宿の二年生になっている。どのくらい成長したのだろうとわくわくしながら読み始め、最初の数ページでええっ? となった。〈総身から火がこぼれ出ているかのような、迫力あるじん〉と前作で形容されている「猫宿のおさ」が、江戸城内で何者かに斬られ亡くなってしまうのだ。
「猫宿の長」はかつて織田信長として世に君臨した猫又。そもそも江戸城内に猫宿があるのも、家康の時代から長が代々の徳川家将軍と懇意にし、彼らに知恵を授けていたからだった。つまり、みかんをはじめとする猫又たちは大きな支えを失ってしまったのだ。その知らせが入った猫宿では、若い猫又たちが荷物をまとめて里帰りを始めていた。ところがなぜかみかんたち二年生二十人には、帰ってはいけないとお達しが来る。理由は「猫君」だった。特別な存在である「猫君」は二年生の中にいる可能性が高いと噂されており、長を斬ったやからに狙われるのではないかと師匠たちは考えたのだ。
 江戸城に留まることになった二年生は、守られる代わりにミッションを与えられる。それは「長の生まれ変わりの仔猫を見つけること」だった。かくしてみかんたちは頭をひねり始めるが、そもそも長を殺したのは誰なのか見当もついていない。そこへあらわれたのが、家斉と知己であるらしい謎の僧侶。彼は二年生たちに、報告が早く為されなければ城で暮らすのを禁じると告げる。どうしてこの人物に言われなければならないのか分からないが、自分たちは追い込まれているとみかんは思う。この八方ふさがりの状況を、いったいどう切り抜けたらいいのか――?
 困難を打開するための大きなカギとなるのが、猫又一人一人が持つ「首玉くびたま」だ。武器や動物に変化したり予言をしたりするなど、持ち主自身の強い相棒になってくれるもの、のはずなのだが、ほとんどの二年生は首玉の扱いにてこずっている。粉の入った袋、鳴らない笛。そんな、役に立ちそうにもないものに変化してしまうのだ。困惑しつつ、どうやって使えばいいのか知恵を出し合うみかんたち。どこか魔法学校のようなスペクタクルで賑やかなテイストを加味しつつ、物語は謎の僧侶の人物像に迫ってゆく。
 敵か味方か分からない彼の秘密は、実はサブタイトルの「りんねの輪」に紐づけられている。ページが進むにつれ、今も昔も変わらない人間の興味の対象――不死――が、長が斬られた理由にもつながっていることが次第に見えてくる。僧侶は言う。〈人が、何かを追い求める力を持っていられるのは、思いの外短い間だ〉と。だから永遠の命を人は欲しがる。業に近いその欲望と内に潜む恐怖が、事の始まりだったのだと判明するくだりは圧巻だ。
 前作の『猫君』、そしてこの続編も、すべてがきれいに解決するわけではない。みかんたちは常に悩みの渦中にいる。それこそが、彼らがこれからも成長し続けるあかしなのだと思う。慎重さと大胆さを併せ持つ思慮深くて優しいみかんは、格好いいヒーローというより、こんな仲間がいたらいいなあと思わせてくれる存在だ。彼を含む猫又たちの、そして人間たちの様々な貌を見せてくれる第二弾。気が早いけれど、続編を今から願っている。

「小説すばる」2026年5月号転載